第1回グリーン・シーズ研究会は、 東北大学大学院工学研究科附属、超臨界溶媒工学研究センターシステム開発部、渡邉 賢教授「水を用いた資源変換:プラスチック、LIB、バイオマス」です。
全世界的に炭素循環化社会の構築が求められるに至り、SAF合成やプラスチック油化など、水を反応溶媒として用いた資源変換が世界で次々と実用化されつつあり、我が国も他聞にもれず検討を本格化しました。当研究センターでは、30年に渡る水の資源変換プロセス開発の実績に基づき、循環社会構築において鍵となるプラスチック、LIB、およびバイオマスの有効利用・再生利用のための技術を開発しています。
本講義では、反応溶媒としての水について反応性や物性の観点で議論しつつ、現在進めているプロジェクトを紹介します。
農業と工学が連携した技術開発で人に優しい化学工学を探究する
渡邊先生が、東北大学 大学院工学研究科・工学部 化学・バイオ系「化バイについてわかる10のコト」で、ご自身の研究について紹介されています。(以下化学・バイオ系サイトより引用)
化学工学は効率的な生産工場をつくったり、新しいものづくりの材料をつくったりと様々な活用方法がありますが、すでに私たちの身の回りにあるもの、例えば「農業」にも化学工学の力を活かすことができます。
東北大学がある宮城県を含む東北地方は農業が盛んですが、これまでは農業と化学工学の分野を積極的に連携した技術開発は加工の分野では事例が多くはありませんでした。
Agro-Engineering(アグロエンジニアリング)とデカフェコーヒー
そこで農学と工学を繋ぐ【Agro-Engineering(アグロエンジニアリング)】という考えに基づき、研究者や農業・漁業に関わる企業により「一般社団法人アグロエンジニアリング協議会」が2017年に立ち上がり、私はフェロー委員長として参加しました。
私の役割としては、農作物を収穫したときの廃棄物や未利用物を有効利用するような化学工学技術があれば、廃棄処理量を減らせるだけでなく、脱炭素に貢献し社会に役立つ活用ができるかもしれません。
実際に海外では工学の力を活用しトマトをグラスハウスの中で育てることで、畑よりも10倍の収穫量を達成しています。また、食肉加工に応用し廃棄量を減らすことにも成功しています。
もちろん化学工学の力はすでに農作物に応用されており、例えば、超臨界二酸化炭素を使いコーヒーからカフェインを効率よく抽出することができます。皆さんも「デカフェコーヒー」というのを聞いたことがあるでしょうか?化学工学の力を使って、コーヒーに含まれるカフェインだけを取り除いたコーヒーのことです。
超臨界技術
生の豆から「超臨界技術」でカフェインのみを取り除こうとするわけですが、実際にはコーヒー本来のうまみや香りなどコーヒーの魅力とされる部分も少なくなってしまうと言われています。
私たちはこの技術のさらなる向上を目指して、研究を進めています。超臨界技術とは、気体と液体の中間のような性質をもたせることのできる温度、圧力条件で物質を流体に溶解させたり、分離させたりすることができる技術です。
デカフェの場合、豆を水に浸し、水の含む量や温度に気をつけながら超臨界CO₂を使って効率よくカフェインだけを抽出すれば、おいしいカフェインレスのコーヒーができるはずです。(後略、全文はこちら)
人にやさしい化学工学を目指して
(以下、渡邉研究室サイトより引用)
渡邉研究室では、工学分野と農学分野の融合領域であるアグロエンジニアリング分野に着目し、水・二酸化炭素・イオン液体といった環境調和型溶媒を用い、バイオマス、バイオカーボン、バイオ分子のプロセッシングに関する化学工学的な基礎研究を行っています。
天然物からの有用成分分離プロセスの開発
天然物はその構造が複雑であるため十分な利用がされていない一方で、その潜在的な価値には大きな期待が寄せられています。本研究室では、コーヒー、ゆず、ひのき、米ぬかといった天然物を対象として、有用成分と不要成分の分離、あるいは未利用部分に対して高機能性を見いだすようなプロセスの開発を目指しています。
- コーヒー生豆からのカフェイン除去プロセスの最適化
- 高機能香料の抽出とホルモン代謝との関係性評価
CO2の分離回収技術ならびに有効利用法の開発
大気中に排出されているCO2を分離・回収し、有用な化成品に変換し固定化する技術は、地球温暖化の抑制と化石資源依存社会からの脱却という、現代社会で解決すべき大きな2つの課題を克服するために必要不可欠といえます。本研究室では、水やイオン液体といった環境調和型溶媒を有効利用することにより、化学工学的アプローチからこれら課題の解決を目指します。
- ラマン分光法を用いたCO2溶解挙動のin-situ評価
- CO2-水二相システムによる単糖類からの5-HMF合成プロセス
ポリマーおよびナノ材料複合ポリマーの物性評価
ひと言で「高分子(ポリマー)」と言っても、セルロースやデンプンのような天然高分子から、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタラートのような合成高分子まで、種類は様々です。それら高分子を材料として用いる際には、多くの場合、その用途や機能性を拡張するために化学的あるいは物理的な処理が施されます。本研究室ではそれら処理を行うために、あるいは処理を行った後のポリマーについて、物性評価を行っています。
- ナノ材料複合プラスチックの粘弾性測定と分散性評価への展開
- セルロースナノファイバーのポリマー内分散性評価
都市鉱山有効利用・廃プラリサイクル
- LIBリサイクル
水熱酸浸出を起点とした廃棄リチウムイオン電池正極材料新規リサイクルプロセスの開発 - プラスチックリサイクル
多層プラスチックフィルムの液相ハイブリッドリサイクルプロセス開発
木材由来高機能・炭素材料開発:バイオカーボンの革新的高付加価値利用法の開発
近年、木材の価格下落による森林管理の衰退が問題になっています。そこで本研究室では、木材の高付加価値化手法として、創電・蓄電デバイスの電極材料としての利用を提案しています。エネルギーの地産地消が叫ばれて久しいですが、『エネルギーデバイスの地産地消』を将来的な目標に、地域バイオマス資源から革新的な電池材料を水熱・超臨界流体プロセスなどのグリーンプロセスを用いて開発していきます。
- 東北の白炭のNaイオン電池負極材料やその他高付加価値電極材料への応用
- 水熱硫化・水熱炭素化法を用いた電極触媒・電極材料の創成
- 超臨界二酸化炭素を用いた木質活性炭内への有機物含浸技術