GREEN GOALS LETTER vol.1|ホンダ×日本重化学工業×東北大学 セミナーレポート

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"GREEN GOALS LETTER"とは?

東北大学グリーンゴールズパートナーの活動内容や、グリーン未来社会の実現に向けて行われている東北大学の研究やさまざまな取り組みについて、随時情報発信してまいります。

vol.1となる今回は、2022年1月開催「東北大学グリーン共創事例研究セミナー」のレポートをお届けします。

東北大学グリーン共創事例研究セミナーレポート

本事例研究セミナーは、東北大学グリーンゴールズパートナーのキックオフイベントとして開催され、さまざまな産業分野から200名を超える多くのみなさまにご参加いただきました。

セミナーに先立ち、東北大学理事・副学長 グリーン未来創造機構の佐々木啓一機構長より、東北大学のグリーン関連の取り組みや展望に関するご説明がありました。

東日本大震災からの復興や防災・減災に関する研究を牽引してきた災害復興新生研究機構を改組・強化し、2021年4月に「東北大学グリーン未来創造機構」を立ち上げたこと、これまで培ってきたさまざまな知見や研究成果を活かし、ポストコロナ時代の豊かなグリーン社会の創造に貢献すべく大きく舵を切ったことが報告され、2021年7月に発表された「東北大学 Green Goals Initiative(東北大学グリーンゴールズ宣言)」の説明がありました。

東北大学 Green Goals Initiative(東北大学グリーンゴールズ宣言)

さらには、カーボンニュートラル分野別の主な研究テーマと研究者の一覧を示しながら、600を超えるグリーン関連の多様な取り組み・研究が進行中であることなど、東北大学の強みをご紹介いただきました。こちらのパンフレットは、東北大学のホームページからダウンロードが可能です。

ホンダ×日本重化学工業×東北大学 業界を超えた共創で実現するリチウムイオン電池の資源化リサイクル

電気自動車の急速な普及により、近い将来必ず直面することになる廃リチウムイオン電池のリサイクル問題。リチウムイオン電池(以下、LiB)にはニッケルやコバルトといったレアメタルが含まれるため、それらの再資源化を目的としたリサイクル技術の開発やリサイクルシステムの確立が急務となっています。

今回のグリーン共創事例研究セミナーでは、廃LiBの資源化リサイクルに取り組んだ3名のキーパーソンにご登壇いただきました。

講演1: 廃リチウムイオン電池のリサイクル技術動向

最初に、東北大学多元物質科学研究所の柴田悦郎教授にご登壇いただき、国内外で実際に行われている廃LiBリサイクルへの取り組み状況とそれらの技術的なポイントを解説いただきました。

いま現在は、処理コストや技術的な制約により、溶融処理によって鉄鋼製品や鉄鋼スラグとして再利用する処理が中心となっているため、レアメタルの元素回収率が低く、“再資源化”という面では、まだまだ解決すべき課題があります。また、LiBの分解や輸送には発火等の事故のリスクがあるため、リサイクル技術の開発のみならず、LiBの回収や輸送を含めたリサイクルシステムを確立する必要があるとのことでした。

その観点からも、今回取り上げた本田技研工業株式会社が主導する廃LiBのトータルリサイクルシステム構築への挑戦は、今後のリサイクルシステムのモデルとなる取り組みであると高く評価されていました。

講演の最後に、このような産業界の先進的な取り組みにおける東北大学の役割・貢献として、以下3点について説明がありました。

(1)  東北大学において長年に渡り培われてきた非鉄精錬に関する知見に基づく処理プロセスの最適化

(2)  充実した分析機器を活用した発生事象のメカニズム解明

(3)  E-scrap等の非鉄金属リサイクルの知見に基づく技術的アドバイス

企業のみなさまがアカデミア(東北大学)をどのように活用すべきか、当事者である柴田教授からその勘所を解説いただきました。

講演2: 使い終わった自動車のリチウムイオンバッテリーはどうなる?貴重な資源を捨てない・燃やさない技術とは

続いては本田技研工業株式会社カスタマーファースト本部資源循環推進部 橋本英喜部長による講演です。

本田技研工業は、2040年には電気自動車・燃料電池車の販売比率をグローバルで100%を目指し、Tank to Wheelでのカーボンフリーを達成するとしています。すでに現時点においても、本田技研工業の出荷台数に占める電動車率比率は54%に達しており、今後急速に増加する使用済み電動車におけるLiBの再資源化は大きな課題となっています。

LiBは自動車リサイクル券の処理品目対象とはなっていないため、自動車メーカーが生産者責任として処理費用をすべて負担する構造になっています。そんな課題を共有する自動車メーカー各社が連携・協力し、2018年には一般社団法人自動車再資源化協力機構によるLiBの共同回収・適正処理スキームが構築されていますが、回収されたLiBは、処理コストの観点から溶融や焼却によりスラグ化して路盤材などに利用されているのが実状で、LiBに含まれるニッケル、コバルトなどのレアメタルの再資源化にはいたっていないとのことでした。

貴重な資源であるニッケル、コバルトの産出国の中にはカントリーリスクの高い国もあるため、再資源化(いわゆる“都市鉱山”)の実現は、資源循環型社会構築の観点からも大変重要なテーマであり、本田技研工業を中心に、松田産業株式会社、日本重化学工業株式会社、東北大学が連携・協力して取り組んだLiBの再資源化技術の開発、リサイクルシステム構築に取り組む意義、目指すところがよく理解できました。

講演3:使用済みリチウムイオンバッテリー正極材に含まれるレアメタルの資源循環への取り組み

次に、LiB正極材に含まれるレアメタルの再資源化技術の開発に取り組んだ日本重化学工業株式会社機能材料事業部の布浦達也部長にご登壇いただきました。

日本重化学工業は、合金鉄事業、エネルギー事業のほか、水素吸蔵合金などの電池材料を取り扱う機能材料事業を展開しています。

水素吸蔵合金は、現在は主にニッケル水素電池の負極材料として使われていますが、今後は水素貯蔵用タンクや水素エネルギー蓄電設備等の材料としても大きな需要が見込まれています。

この水素吸蔵合金の原料となるのがニッケルやコバルトといったレアメタルで、これらの資源を量的にも価格的にも安定して確保することが重要になります。

そこで日本重化学工業が取り組んだのが、廃LiB正極材からニッケルとコバルトを個別に分離して回収するのではなく、ニッケルコバルト合金として回収し、水素吸蔵合金の材料として使用するための技術開発です。

東北大学の柴田教授による熱力学的検討・試算や溶融実験などの協力と技術的なアドバイスを受け、自社設備における溶融実験、テルミット反応による回収実験などを繰り返し、最終的にはニッケル、コバルトともに99%を超える収率にて回収する技術を確立しました。

この技術の優れたところは、貴重な資源を無駄なく回収しリサイクルできるということのほかに、電極基材のアルミニウムを還元剤としたテルミット反応を利用することで、外部加熱を必要としない低コストでエネルギー投入の少ない脱炭素型リサイクル技術の開発に成功した点です。

レポート後記

今回のグリーン共創事例研究セミナーにて取り上げた使用済み車載リチウムイオン電池の資源化リサイクルの事案では、異なる事業分野の企業がそれぞれの強みを活かして連携・協力し、アカデミア(東北大学)の知見や技術を活用することでブレイクスルーを実現しました。産学共創による成果創出のモデルとして大変参考になる内容でした。

もうひとつ学んだことは、資源化リサイクルを確立するためには、個々の技術的な課題を解決することに加えて、回収や輸送などを含めたトータルシステムの構築が重要だということです。そして、そのシステム構築にあたっては、産業界の連携・協力のみならず、行政やアカデミアの果たすべき役割も大きいと感じました。

PARTICIPATION
参加方法