GREEN GOALS LETTER vol.10|NEWSTOPICS・金子俊郎教授 研究会レポート

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東北大学 GREEN TOPICS

1.スピン熱伝導物質のナノシート化に成功 ~熱の流量を操る「熱伝導可変材料」の開発を目指して~

 東北大学大学院工学研究科応用物理学専攻の藤原研究室を中心とする研究グループは、アルカリ溶液を用いた簡便な化学的手法で厚さ数ナノメートルのスピン熱伝導物質の開発に成功しました。このナノシートの室温での熱伝導は、電気的に金属並みの高い状態とガラスレベルの低い状態で制御が可能と予想されるため、熱の流量を制御できる熱伝導可変材料や効率的な排熱と再利用に向けた熱制御デバイスへの応用が期待されます。(2022年10月14日:大学院工学研究科 応用物理学専攻 助教 寺門信明)

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2.世界一のベクトル型スパコン、東北大学に誕生!社会を支えるインフラとして防災減災にも貢献

 東北大学サイバーサイエンスセンターはカタログ上の性能ではなくて実際に使った時の性能を重視し、ベクトル型のスーパーコンピュータ(スパコン)を整備・運用してきました。

 同センターで現在運用しているベクトル型スパコン(通称AOBA)は科学技術計算において実際に高い性能を達成できるため、日本全国の利用者からの高い支持を得てきました。その高い需要に応えるために、2023年8月よりベクトル型スパコンを大幅に増強します。その性能は14倍以上になり、ベクトル型スパコンとしては世界最大の規模となります。

 世界最大のベクトル型スパコンを整備するだけにとどまらず、その活用技術に関する世界的拠点を東北大学に形成することも目指し、産学連携を今後さらに進めていきます。特に近年はデータ駆動科学やAIといった新しい応用分野でのスパコン需要も拡大していることから、それらの分野におけるベクトル型スパコンの活用技術を開拓していきます。

 他のスパコンにはない特徴的な役割として、同センターのスパコンAOBAは、緊急時には減災のための社会基盤として機能することもできます。平時は学術目的で利用しつつ、地震等の災害時には緊急対応として減災のためのシミュレーションを実行します。今回の大幅な増強によって、そのような新しいスパコンの使い方もより広く検討できるようになり、Society 5.0時代の安全安心を支える社会インフラとしてもさらなる活用方法の開拓が期待されます。(2022年10月7日:サイバーサイエンスセンター 教授 滝沢寛之)

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3.世界最高の超伝導臨界電流密度を有する薄膜線材を創製 ―液体ヘリウム沸点温度(−269℃)で150 MA/cm²を達成―

 成蹊大学大学院理工学研究科 三浦正志教授(JST創発的研究支援事業・創発研究者、米国ロスアラモス国立研究所・長期客員研究員)は、東京大学 大学院総合文化研究科 前田京剛教授のグループ、大学院工学系研究科 加藤康之助教、山梨大学 關谷尚人准教授、ファインセラミックスセンター 加藤丈晴博士のグループ、東北大学 淡路智教授のグループ、ロスアラモス国立研究所 B. Maiorov博士とL. Civale博士と共に、新材料設計指針である『磁束ピン止め点制御』と『キャリア密度制御』の融合により銅酸化物高温超伝導材料YBa2Cu3Oy(Y123)の薄膜線材を創製し、すべての超伝導材料の中で最も高い世界最高の超伝導臨界電流密度150 MA/cm²を液体ヘリウム沸点温度(−269℃)で達成しました。また、本指針により鉄系超伝導材料BaFe2(As1-xPx)2)の薄膜においても世界最高級の超伝導臨界電流密度を達成し、種類の異なる超伝導材料への有効性を確認しました。(2022年10月24日:金属材料研究所 教授 淡路智、助教 岡田達典)

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グリーンシーズ研究会(10月)レポート

 第9回目のグリーンシーズ研究会は、東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 物性工学講座 プラズマ理工学分野 非平衡プラズマ学際研究センター長の金子俊郎教授にご登壇いただきました。演題は「大気圧非平衡プラズマを活用した環境・農業・医療分野における新技術」です。

金子先生にご登壇いただきました。

 金子先生が研究されているプラズマは、固体、液体、気体に次ぐ第4の物質の状態とされ、宇宙の物質の99%以上を占める「生命の起源」ともいわれています。プラズマは電子、イオン、中性分子(原子も含む)で構成され、それらはランダムな熱運動をしています。粒子は、さまざまな速度を持ち、それらの粒子の平均運動エネルギーの大きさの指標は温度で規定されます。

 電子温度とイオンや原子の温度が熱平衡状態、すなわち同じである状態を平衡プラズマと呼び、電子温度がイオンと原子の温度よりも高い状態を非平衡プラズマと呼びます。非平衡プラズマは、電子、イオン、活性種、等で構成され、半導体集積回路製造における微細加工技術、新機能性材料創製等への応用等により産業を根底から支えています。

 さらに、大気圧で生成する非平衡プラズマは液体と接触させることができ、その特徴を利用した医療分野、農業分野における応用研究が急激に進展し、持続可能な(SDGs)未来社会を構築すべく、新たな学術研究領域が拡がっています。

 農業応用を例に挙げると、金子先生は、農薬を使わずに病原菌を死滅あるいはその活動を停止させ、さらに農作物の機能性成分を向上させる栽培技術が必要であると考え、「大気圧プラズマ中に存在する活性種」を植物体に照射し、細胞レベルで作用させる水導入プラズマ活性ガス噴霧装置を開発しました。

 この水導入プラズマ活性ガス噴霧装置の特徴は、プラズマ生成の原料が空気と水蒸気のみであるために農薬のような高分子化学物質が発生せず、また水蒸気濃度を格段に高めることで殺菌や機能性成分向上に作用する「水酸基ラジカル(OH)」や「過酸化亜硝酸(HOONO)」等の活性種を極めて高濃度に生成することができます。

 東日本大震災で被災した宮城県山元町のイチゴ農家において実証試験を開始し、植物体への影響と病気の発生割合を調べた結果、炭疽(たんそ)病、灰カビ病など、イチゴの代表的な病気の発生抑制が確認され、現在では、埼玉県越谷市の農業技術センターで民間企業3社との大規模な実証実験が行われています。

 大気圧非平衡プラズマの、環境応用(コロナウイルス不活化、病原菌殺菌等)、医療応用(遺伝子導入、治療薬合成等)、農業応用(植物成長促進、植物免疫強化等)など、さらなる研究開発に期待が膨らみます。

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