GREEN GOALS LETTER vol.9|NEWSTOPICS・松八重一代教授 研究会レポート

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東北大学 GREEN TOPICS

1.印刷で高品質なシリコンゲルマニウム半導体を実現 ~超高効率多接合太陽電池の飛躍的な低コスト化に貢献~

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の福田 啓介 博士前期課程学生(研究当時)、宮本 聡 特任講師、宇佐美 徳隆 教授は、大阪大学大学院工学研究科・東洋アルミニウム半導体共同研究講座のダムリン マルワン 特任教授(東洋アルミニウム株式会社シニアスペシャリスト)、東北大学金属材料研究所の藤原 航三 教授、奈良先端科学技術大学院大学の浦岡 行治 教授らとの共同研究で、東洋アルミニウム株式会社の独自技術により作製される特殊なペーストをシリコン単結晶基板に印刷して熱処理を行うことで、高品質なシリコンゲルマニウム半導体を非真空で実現することに成功しました。

 本研究成果は、超高効率多接合太陽電池の低コスト化の貢献に期待できます。(2022年9月13日:金属材料研究所教授 藤原航三、助教 前田健作)

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2.貴金属不要な低コスト・高効率水素発生用の触媒候補材を開発 -脆く溶けにくく加工性の悪い金属間化合物の3次元ナノ構造化を実現-

 化石資源の燃焼によって排出される二酸化炭素(CO2)を減らすクリーンなエネルギー源として水素が注目されています。しかし水素の多くは原油から取り出していることが現状です。そのため水の電気分解による水素製造は、断続的な再生可能エネルギーを貯蔵して有効利用する上で有望な要素技術として注目されています。

 東北大学大学院工学研究科博士後期課程3年生の宋瑞瑞(日本学術振興会特別研究員)、学際科学フロンティア研究所の韓久慧助教(研究当時)および金属材料研究所の加藤秀実教授(非平衡物質工学研究部門、先端エネルギー材料理工共創研究センター兼任)らの研究グループは、金属液体中で生じる脱成分反応を利用した独自の「金属溶湯脱成分法(Liquid Metal Dealloying Method)」を用いて、従来法では困難であったMo-Co系金属間化合物の共連続ナノポーラス化に成功し、これが白金系触媒に比肩する優れた水素発生反応触媒能を呈することを明らかにしました。金属間化合物の更なる元素・組成の最適化、および、ポーラス形態の最適化を通して、白金系を凌駕する低コスト・高効率のHER触媒の開発が期待されます。(2022年9月14日:金属材料研究所 教授 加藤秀実)

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3.排ガス浄化のための酸素貯蔵セラミックスを低温作動化 ─EUの排ガス規制厳格化への対応に期待─

 自動車産業では電動化に加え、欧州で策定中のEuro7(注2)など排ガス規制強化への対応が喫緊の課題です。排ガス浄化触媒の高性能化と貴金属使用量削減の鍵を握るのが酸素貯蔵セラミックスです。東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の高村仁教授らは、セリウム・ジルコニウム系酸化物にコバルトと鉄を固溶させ、400 ℃という低い作動温度で従来の13.5倍の酸素貯蔵量を達成しました。また、優れた酸素貯蔵特性を示す結晶構造を得るために、これまで合成に1200 ℃という高温が必要でしたが、その温度を800 ℃に低減しました。この酸素貯蔵セラミックスの低温作動化と高性能化は触媒中のパラジウム等の貴金属使用量削減にも貢献します。(2022年9月28日:大学院工学研究科 教授 高村仁)

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グリーンシーズ研究会(9月)レポート

 第8回目のグリーンシーズ研究会は、東北大学大学院環境科学研究科先進社会環境学専攻環境政策学講座 環境・エネルギー経済学分野の松八重一代教授にご登壇いただきました。演題は「資源利用とサプライチェーンリスク No more out of sight, out of mind.」です。

松八重先生にご登壇いただきました。

 松八重先生は、廃棄物・資源経済学、産業エコロジー、ライフサイクル分析を専門分野として研究しています。主にマテリアルフロー分析、ライフサイクル分析といったツールを使ってモノの流れを追いかけ、循環資源を活用したときの環境負荷がどのくらい増え、社会・経済への影響がどの程度あるのかを定量評価する研究を行っています。

 講義では、最初に鉱物資源に係るサプライチェーンリスクに関する研究テーマを取り上げ詳しく解説いただきました。

 低炭素社会に向けた技術革新が進展していますが、それに伴い鉱物資源需要も急拡大しており、その採掘・輸送・精錬、あるいは鉱山廃棄物などによる環境負荷(環境攪乱)が高まっています。この環境攪乱の代理指標として、ひとつの完成品を製造するために直接投入される資源に加えて、サプライチェーンの中で間接的に投入される資源やその過程で生じる廃棄物等の「隠れたフロー」を含む関与する物質の総量『TMR(Total Material Requirement:関与物質総量)』により評価する試みが紹介されました。

 例えば、電気自動車(EV)は、走行時の炭素排出の軽減を実現しますが、TMRによる比較では、ガソリン車の3倍弱の環境攪乱を引き起こす計算になります。低炭素社会の実現に不可欠とされるEVですが、その裏側には環境攪乱を増加させてしまう現実があることを認識し、まずはその影響やリスクを明らかにしたうえで必要な対策を講じていくことが求められます。

 次に取り上げたテーマは、温暖化などの環境変化がもたらす生態系変化の実態把握と環境攪乱の「食」に及ぼす影響を低減させるための地域の取り組みです。

 伊勢湾では、温暖化等の環境変化によるタコの減少に伴い、タコを餌としていたウツボが伊勢海老を捕食するようになったことで伊勢海老漁に深刻な影響が及んでいます。伊勢海老を守るために、もともと食文化のないウツボを駆除する必要に迫られ、未利用食資源廃棄物を増加させる要因にもなっています。

 この例からもわかるように、気候変動や海洋生態系の急激な変化により、一次産業の生産性低下(獲りたいものが獲れない)や産地廃棄・食品ロス等の未利用食資源廃棄物の発生(要らないものが獲れる)といった問題が顕在化しています。別の見方をすれば、このような事象は、環境変化に人々の暮らしが対応できていないことを物語っており、持続可能な食の危機に直面していることを意味しています。

 松八重先生は、これらの問題に対処するための仕組みとして、美食地政学に基づくグリーンジョブマーケットの醸成共創拠点づくりに関する研究プロジェクトを推進されていて、行政や地域企業、一次産業従事者や学生らと連携・協力し、地域発生未利用農林水産資源の適正管理と環境保全、環境に配慮した消費者・生産者の行動変容、グリーンジョブの担い手となる高度専門人材育成・グリーンマーケットの醸成などに精力的に取り組まれています。

 今回の研究会は、世界的に低炭素社会の実現に全集中している時代にあって、より広い視野で環境負荷やそのリスクを捉え、炭素以外のさまざまな環境攪乱要因にも目を向けなければならない現実を知る貴重な機会となりました。

グリーンシーズ研究会のオンデマンド視聴について

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