東北大学 GREEN TOPICS
1.停電復旧の最短手順を算出するアルゴリズムを開発 多段融通にも対応、より広域な配電運用への活用に期待
停電発生時、事故や故障が生じていない停電区間は、周辺の供給余力を用いて早期に停電復旧できることがあります。しかし、隣接する供給源の余力では賄いきれない規模の停電が発生した場合には、離れた供給源の余力も活用しなければなりません。これは多段融通と呼ばれ、停電が発生していない健全な需要区間にも供給経路の変更が生じる復旧方法です。多段融通では、制御対象となる配電系統は広域となり、加えて健全な需要区間も制御対象となるため、配電運用には困難を伴います。
この問題を解決するため、東北大学大学院情報科学研究科の伊藤健洋教授と鈴木顕准教授、京都大学大学院情報学研究科の川原純准教授、中部大学工学部の飯岡大輔准教授、株式会社明電舎による研究チームは、2020年より共同研究を開始し、停電復旧の最短手順を算出するアルゴリズムを開発しました。(特許共同出願中)。
本研究のアルゴリズムは、停電復旧に多段融通が必要か否かを判定し、いずれの場合にも、停電復旧を実行するための最短の切替手順を算出します。本研究では「組合せ遷移」と呼ばれる新しいアルゴリズム手法を用いることで、健全な需要区間への電力供給を持続しながら、停電復旧への最短の切替手順を算出することを可能としました。さらに本アルゴリズムを用いることで、多段融通の必要性および切替手順の最短性が理論保証されるため、数理的エビデンスを伴った停電復旧を可能とします。主にアルゴリズムの研究は東北大学と京都大学が行い、電力系統技術分野の研究は中部大学と明電舎が行いました。
激甚災害に伴う大規模停電やライフスタイル変容に伴う需要密度の変化など、可用性を担保しながら、より広域な配電系統を制御することが現代社会では求められています。本研究のアルゴリズムは、このような要請に応え、系統事故時の自動復旧や系統混雑の解消、設備容量スリム化の計画業務など、より高度な配電運用へ活用されていくことが期待されます。(2022年11月7日:大学院情報科学研究科 教授 伊藤健洋)
2.東日本大震災の津波で変化した沿岸生態系が回復 延べ500人余の市民ボランティアとの調査で判明
2011年3月11日の東日本大震災で発生した大津波は、東北の沿岸生態系に大きな影響を及ぼしました。しかしその後、それらの生態系がどのような経過を辿るかは不明でした。そこで東北大学大学院生命科学研究科の柚原剛研究員、占部城太郎教授らは、国立環境研究所や宮城県内の高校教員らと研究チームを組み、延べ500人の市民ボランティアの協力を得て、仙台湾に点在する8つの干潟注1を対象とし震災前後10年に渡る生物多様性調査を実施しました。
その結果、どの干潟でも震災後数年で以前生息していた種が確認されるようになり、特に周囲環境が元にもどった干潟の生物群集注2は7〜9年後には震災前と区別がつかなくなりました。東北沿岸の干潟の生物群集は、周囲環境が変化しなければ、津波による生態系撹乱から10年程度で回復するレジリエンスの高い生態系であることが分かりました。(2022年11月22日:大学院生命科学研究科 教授 占部城太郎)
3.未知の化合物の探索と活用 ~システム生物学のミッシングリンク、「メタボロームデータ」の整備~
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所、かずさDNA研究所、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、株式会社さくら科学、京都大学の共同研究チームは、特定の生物に存在する未知の化合物を探索できるデータベースを開発し、公開しました。
研究チームは、生物をはじめとする試料中の化合物成分を網羅的に検出する「メタボローム解析」の技術を用いて、動植物・微生物・食品・環境サンプル・工業製品など、合計1000種類を超える様々な試料を分析し、本データベースを構築しました。このデータベースにより、試料から検出された既知・未知化合物成分を任意の試料間で比較することが可能になったのです(万物メタボロームレポジトリ 等)。論文では、本データベースを用いて化合物とゲノム情報を統合解析することで、特定の植物種に特異的な代謝経路上の化合物とその代謝に関与する遺伝子候補を選抜した活用例などを報告しています。
本データベースによって、生理活性などに基づいた精製・構造決定という、個別成分の「ボトムアップ型」の従来の研究アプローチに加え、バイオインフォマティクスを用いて化合物世界の全体像から未知の化合物 を選びだす「トップダウン型」の研究アプローチが可能となりました。今後、未知の有用化合物やマーカー化合物の発見など、研究分野を超えた本データベースの活用が期待されます。(2022年11月24日:東北メディカル・メガバンク機構生命情報システム科学分野 講師 青木裕一)
グリーンシーズ研究会(11月)レポート
第10回目のグリーンシーズ研究会は、東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 加藤俊顕准教授にご登壇いただきました。演題は「完全透明太陽電池が拓く新しいグリーン社会」です。
日本の国土面積当たりの太陽光設備容量は世界一であり、設置場所は既に飽和状態にあるといわれています。また、森林を伐採した大規模太陽電池の設置は、環境破壊につながりかねなません。そこで、発電と生活を共存させるために、設置により環境を乱さない環境調和型太陽電池の開発が必要となります。
加藤先生らの研究チームは、設置により環境を乱さないために、透明性、柔軟性、軽量性を兼ね備え、存在が認識できないほど透明であり、自然や都市に溶け込むことのできる可視光透過率80%の高透明太陽電池の開発に成功しました。
発電層に「遷移金属ダイカルコゲナイド」と呼ばれる金属化合物を使い、厚さが1ナノ(ナノ=10億分の1)メートル以下と非常に薄く、透明で光を電気に変える半導体の性質を備えています。電極にもニッケルやパラジウムに代えてインジウムやスズを用いた透明な金属を使い、可視光を約80%透過する太陽電池が実現しました。
透明な太陽電池の開発例はこれまでもありましたが、可視光の透過率が30~60%程度の「半透明」のものがほとんどでした。加藤先生らの太陽電池は、層の重ね方や配置を工夫することで、1平方センチメートルの面積で約420ピコワット(ピコ=1兆分の1)の電力を生み出すことが可能となりました。低消費電力な熱センサーは100ピコワット程度で駆動するため、実用レベルの発電量が得られたのです。
また、直近では大面積で発電を行うために必要なデザインルールが存在することを見出し、人が認識できないほど透明な太陽電池によって、従来型の太陽電池が設置できないビルの窓ガラス、車のフロントガラスなどの大面積から、眼鏡、スマートフォンなどの小面積まで、身の回りのさまざまな生活環境で微小エネルギー発電が可能となるため、エネルギー問題と環境問題を同時に解決可能な革新的社会貢献に大きな期待が集まっています。
グリーンシーズ研究会のオンデマンド視聴について
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