GREEN GOALS LETTER vol.8|NEWSTOPICS・川田達也教授 研究会レポート

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東北大学 GREEN TOPICS

1.プラズマ技術を利用した植物免疫の活性化 ~環境負荷の少ない植物病害防除技術の開発に期待~ 10月19日(水)グリーンシーズ研究会にご登壇予定!

 活性窒素種は植物免疫をはじめ、様々な生理現象に重要な機能をもつ反応性の高い物質です。N2O5は活性窒素種の一つですが、従来は合成およびその保管に技術的課題があり、生物に対する生理作用がほとんど知られていませんでした。

 金子教授らのグループはプラズマ技術を利用し、高濃度N2O5ガスを生成できる装置の開発に成功しました。そこでこの装置を利用し、安藤准教授と高橋教授のグループがN2O5ガスの植物免疫における機能を解析しました。その結果、N2O5ガス処理によって植物免疫に重要な生理活性物質であるジャスモン酸とエチレンのシグナル伝達経路が活性化され、灰色かび病菌やキュウリモザイクウイルスの感染・増殖が抑制されることが明らかになりました。

 N2O5はプラズマ技術を用いて空気のみから低電力で生成できます。また、生成されたN2O5は水に溶けると、植物に肥料成分として利用される硝酸(HNO3)に速やかに変化します。本研究成果は、環境負荷の少ない次世代の植物病害技術として期待されます。(2022年8月1日:農学研究科 准教授 安藤杉尋)

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2.無機化合物の2つの基本構造の共存と制御を達成 ― 環境浄化や人工光合成の実現に向けた新たな材料設計指針を提示 ー

 NaCl(塩化ナトリウム)に代表される岩塩型構造※1とCaF2(フッ化カルシウム)に代表される蛍石型構造は、無機化合物において、最も基本的な結晶構造です。また、岩塩構造の層(岩塩層)を持つ化合物や蛍石型構造の層(蛍石層)を持つ化合物も数多く知られています。

 京都大学大学院工学研究科の加藤大地 助教、阿部竜 同教授、陰山洋 同教授、東京工業大学理学院化学系の八島正知 教授、大阪大学大学院工学研究科の佐伯昭紀 教授、東北大学大学院工学研究科の高村仁教授らの共同研究グループは、この2つの構造ユニットを共存させ、制御できることを発見しました。同グループは、光触媒として知られていた酸塩化物Bi12O17Cl2の構造解析を行い、蛍石型構造に似た構造を持つ蛍石層(蛍石ユニット)の中に部分的に岩塩型構造に似た構造を持つ岩塩ユニットが内包されることで、波打った構造を有することを見出しました。加えて、フッ素を挿入する反応を行い、岩塩ユニットと蛍石ユニットの複合パターンを変化させ、構造を平坦化させることで光触媒活性が最大6倍と大幅に向上しました。本成果は、無機化合物の新しい構造の構築と制御法を示したものであり、今後、この2つの基本構造を自在に組み合わせることが可能になれば、新しい機能性材料の開発につながることが期待できます。(2022年8月3日:工学研究科 教授 髙村仁)

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3.光による磁気スイッチの新たな原理を発見 超低消費電力・超高速光磁気メモリなどの実現に期待

 逆ファラデー効果は、光による磁化の発生や高速制御の原理として知られています。この効果は、次世代の光磁気メモリなどに応用できると期待され、各国で研究が進められています。しかし、その対象物質は、おもにスピンの方向が固定された反強磁性体や弱強磁性体などに限られおり、スピンの向きを変えるために比較的高いエネルギーが必要で、スピンの向きが変わる速度が低いことが問題でした。

 東北大学大学院理学研究科の岩井伸一郎教授、天野辰哉特任研究員、大串研也教授、今井良宗准教授、若林裕助教授、中央大学理工学部の米満賢治教授、名古屋大学大学院工学研究科の岸田英夫教授らの研究グループは、磁気秩序を持たないキタエフ量子スピン液体物質(α-RuCl3)に光(円偏光)パルスを照射した瞬間、図1のように磁化が発生することを発見しました(図1)。発生した磁化の大きさは、典型的な反強磁性体の20倍にも達します。また、これまで反強磁性体などで提案されてきた機構よりも約一桁高速な磁化の制御が期待できます。(2022年8月24日:理学研究科物理学専攻 教授 岩井伸一郎)

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グリーンシーズ研究会(8月)レポート

第7回目のグリーンシーズ研究会は、東北大学大学院環境科学研究科の川田達也教授にご登壇いただきました。演題は「高温イオン導電性セラミックスを用いる燃料電池(SOFC)とグリーン燃料製造技術」です。

川田先生にご登壇いただきました。

 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー用発電設備の導入が世界規模で拡大していますが、再生可能エネルギーによる発電は、時間変動、日変動、季節変動あるいは天候などにより大きく変動するため、これを主要電力源の一つとして活用するには、出力変動や需給変動に柔軟に対応し電力を安定供給するための分散発電システムや電力貯蔵システムの導入が必要となります。

 川田先生は、SOFC(酸化物イオン誘電性セラミックスを電解質として用いる固体酸化物形燃料電池)や、SOFCの逆反応であるSOEC(個体酸化物電解セル)の研究を行っています。SOFCは、高効率分散電源として家庭用熱電併給や業務用システムへの利用が始まっており、また、SOECは、グリーン電力を燃料というかたちで貯蔵する目的に利用することが期待され、注目が高まっている技術です。

 現在、自動車や携帯機器の電源として利用されている固体高分子形燃料電池(PEFC)は、作動温度が低く起動時間が短い、軽量コンパクト化が可能、発電効率が高いといった長所がある一方で、触媒に白金などの高価な貴金属が用いられ、また、燃料となる高純度の水素を供給するシステムが必要となるなど、普及に向けた課題もあり、究極のエコカーと期待された燃料電池車(FCV)が普及しない一因となっています。

 これに対してSOFCは、作動温度が600℃から1,000℃と高温なため、起動時間が長く、また各部品の温度変化による膨張・収縮により、セルを集積したスタックの設計が難しいなどの短所がある一方で、発電効率が高く、白金触媒を必要としないため低コストで、また水素の他、メタンや一酸化炭素などを燃料とすることができるため、都市ガスなどをそのまま利用できる長所があります。さらに排熱を利用したエネルギー回収機構を組み合わせると、システム全体のエネルギー変換効率は70~80%まで高められます。

 研究会では、SOFC/SOECの動作原理、国内外の研究開発の歴史と最新動向、性能・耐久性・信頼性を向上させる技術開発について詳しく解説していただきました。さらに、SOFCの材料でもある高温酸化物イオニクス材料を用いた、熱、力、光によるエネルギー変換に関する最新の研究成果やその可能性についてご紹介いただきました。

 川田教授の研究開発のお話を伺って改めて認識したのは、カーボンニュートラルやレジリエントな社会を実現するためには、さまざまな技術を組み合わせて利用する「システム」の構築が必要不可欠であるということです。そして、そのシステムを構成する各要素技術における課題をひとつひとつ解決していく地道な研究開発によって、「システム」が機能し成長するのだということを再認識する研究会となりました。

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